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愛についての考察 〜言葉遊び〜 ふと考えたこと

愛の定義

01 愛についての考察(1) 〜 愛という言葉について 〜
李・青山華

 愛という言葉は、基本的には自分の大事なものを守り、すべてのトラブルから守り、大切にしたいという気持ちからくる概念である。狭い意味では、異性に対しての感情を示すことが多いが、本来の意味は異性間ということにこだわらない。それどころか、生物、無生物ということにも関係のない、かなり広い、自由な概念の言葉である。

 プラトン哲学では、愛はエロスという言葉で示される。エロスは、ギリシャ神話で愛欲を司るとされている神である。ソクラテスはエロスがなぜ愛欲を司る神になったかということを論理的に検証し、エロスの欲求が、イデアの世界を志向する純粋な精神的愛、つまり智など自分に欠けたものを得たいと求める衝動であるとした。それが転じて、肉欲を伴わない、精神的な愛を、現代ではプラトニックラブと呼んでいる。この論理展開は、いわゆる逆説というもので、人々が当たり前と考えているものをひっくり返すことで、自分の伝えたいものを、相手に強く印象付けるために利用される、論理展開のやりかたである。当時の人々は、エロスが品行方正な神に譬えられたことに新鮮な驚きを感じたことであろう。

 これが、キリスト教の考え方では、愛はアガペーとエロスという概念に分かれる。アガペー[agape]は、罪深い人間に対する神の愛、献身的な愛、人間どうしの兄弟愛など、自己犠牲的・非打算的な愛をいう。それに対し、エロス[Eros]は、性的な愛を指す。異教の神であるエロス神が、そのままの姿で扱われるところをみると、キリスト教自体が、当時はギリシャ神話を駆逐するだけの力がなかったことを示しているようで興味深い。もしくは、キリスト教自体がその教義の中に、ギリシャ神話的な考え方を取り込んでいたのだろうか。イスラム教が、本来否定すべき宗教であるキリスト教の教義をかなり取り込んでいるのと同じように。

 さらに下って、近代の心理学では、フロイトの用語で、エロスが生の欲動、つまり性本能・自己保存本能を含む生の本能をさし、対立する概念として、タナトスという言葉で包括される概念がある。タナトス[(ギリシヤ) Thanatos] は、攻撃、自己破壊に向かう死の本能をさす。

 哲学という考え方は、どんな概念でも屁理屈をつけて取り込んでしまうため、あまり信用しない方がよさそうである。とりあえず、ここでは、愛ということばは、何かを大切に思い、大事にしようとする心である、と規定する。今後のお話は、これを踏まえて進めることにする。

結論;愛という言葉は、何かを大切に思い、大事にしようとする心を表す。

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