モリは凄まじく怒っていた。美しくセットされた髪から、モリにはあり得ない、ほつれ毛が下がっている。
「とにかく、37002号を狙わせて欲しいのよ。私にその役をちょうだい。何で私が外されるの?」
モリの気迫を真正面から受けながら、それでも眉一つ動かさず、プラタナスは答えた。
「わかっている。必要があれば、その役をあなたに回そう。しかし、今はその時ではない。しばらくは他の仕事をやっていてもらいたい。」
「くそっ。」モリは、壁にこぶしを叩きつけて去った。プラタナスはそれを見送り、横のキスゲに囁いた。
「なんであの男を排除対象から観察対象に移したんだ?モリの言うとおり、あの男はアオを殺したんだ。放置するのは危険じゃないのか?」
「いえ、大丈夫。いくつかの要因が組み合わさって、あの男の状況は変わったの。今なら、あの男を戦力としてこちらが取り込めるわ。」
「ほう。こちら側に取り込むのか。しかし、モリはどうする。同じ籠の中にコブラとマングースを入れるのはまずいだろう。」
「実はね、プーさん。その環境の変化というやつは、モリさんにも影響してるのよ。」
「...おい。まさか。」
「そう。そのまさか。モリさんはね、いまや組織にとって、とっても危険な存在になっているの。どこかで排除しなくてはならないくらいのね。」
「アオの件か...」
「皮肉なものね。」
「私だって、アオやモリが好きなわけじゃないが、少なくとも一緒にオペレーションしてきた相手だろう。何か他の方策はないのか?」
「あなたが私を拾ったのよ、プーさん。感情を入れてパラメータを変化させたら、収拾がつかなくなるのは目に見えているでしょう。私は計算して、1+1が2になるだろうと予測しているだけ。1+1は、どうしても3にはならないの。」
「キスゲ...」
キスゲは向こうを向いたまま片手をひらひらと振り、自室に入っていった。プラは閉じた扉を見つめ、ゆっくりと頭を振った。扉の外側は、無機質な光をたたえた壁と扉が続く、非人間的なエリアである。そして、プラタナス自身もこのドアの中にいる一人なのだ。
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