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海底クルーズ 〜夢〜 |
李・青山華 |
海底クルーズ 〜夢〜 一家で潜水艦による海底クルーズに行く。 古い倉庫のような中の広いコンクリの上にスノコが渡してあり、 その上を通って行く。 私たち以外の客は行き場のないような男たちが数人である。 潜水艦の船室は二つに分かれており、その間にトイレがある。 前の船室に人がいるので、後ろの部分に行く。 そこは浴室だったようであり、湯船の中に椅子とテーブルが入っている。 とても狭い。 気がつかぬうちに、既に海底クルーズは始まっているようだ。 窓の外は暗く、海に潜っているのかどうかもわからない。 潜水艦が上がり始めた感じがして、しばらく経つと海の上に出る。 ドックに近づいたのか、窓のすぐ外に大きな水槽がならんでいる。 進みながら聞き取りにくいアナウンスが入る。 この海の変わった生物等が展示してあるらしいが、汚れていてよく見えない。 この展示も途中から企画途中のような状態になるが、 すでにさびれているので完成することはないように感じられる。 ドックにつき、乗っていた人たちはすぐに降りていなくなってしまう。 妻と子供も先に消えてしまった。 艦を降りると、左側に建物がある。 日も沈んで、夕焼けの光がもう消えるくらいの空を背景に、 すっかり褪せてつやのない黒っぽい色になった木造の建物が建っている。 本来は、そこが潜水艦の整備を行ったり、クルーズの企画に使うものを 準備したり作ったりするところだったはずである。 その建物のドアが開いており、中でオレンジ色の光が動いている。 燃料が燃えているのだと思うが、半ば廃棄されたそこには、 すでに何かの意思が入り込んでいるようだ。 そう思って慌てて皆の後を追って右に向かう。 広い倉庫のようなところで、事務をしている人が何かを持って話をしている。 私の姿を見て、頭の禿げ上がった男が近づいてきて、持っているバッグを見せて、 これはあなたのものではありませんかと訊く。 見覚えがないので、違いますと答えると、頷いて話し掛けてくる。 その男の顔をよく見ると、20年前に来た時もこの男と話をしたことが あるのを思い出した。男はまったく変わっていない。 水を浴びせられたような気持ちになって、あなたは何でずっとここにいるんだと 口の中でつぶやきながら、男の前を離れる。 男はなおも後をついて来ている。 もう背筋をぞっとさせながら急ぎ足で待合室に向かう。 そこで家族が待っているはずである。 広い待合室の隅で、小さな明かりがついているところで家族が待っている。 その顔が、妙に老けて見えて、またぞうっとした。 後ろからついてきた男が私を案内するような仕草を見せた。 |
05.03.02 |
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