微量毒素

おはなし

いるだろうと思って訪れた友人の家
李・青山華

いるだろうと思って訪れた友人の家に、人がいない。昼間会っていた時には、
特に用事があるようなことも言っていなかった。ずっと待っていてもしょうが
ないので、踵を返す。

重い足取りで帰る背中に、友人が別の友人たちと酒を酌み交わし、楽しそうに
過ごしている姿が浮かび、さらに足取りを重くさせる。自分がこの世の中で、
たった一人だけのような気がして、さらに落ち込んでいく。こんな夜に、家に
一人で帰っても碌なことは考えないが、かと言って馴染みでない場所に出入り
しても、碌なことが起こらない。

途中で向かう方向を変える。家に帰るより、別の友人を訪れようと考えたのだ。
しかし、その足取りも、次第に鈍ってくる。その友人も不在だったら?いつしか
足は止まっている。公園のフェンスに寄りかかり、自分が本当にどうしたいのかを、
一所懸命考えている。


おはなし

微量毒素