微量毒素

おはなし

夜に身を沈めると見え、聞こえしてくる物事
李・青山華

夜の闇の中を歩いている間は、闇は見えない。
立ち止まり、闇に身を沈めてみるのだ。
そうすると。

夜の音が聞こえてき、夜の景色が見えてくる。
夜の音は実体が隠れているので、音だけが独り歩きしている。
聞こえないはずの音が聞こえ、聞こえるはずの音が聞こえない。

夜の景色には奥行きがない。すべてが一枚絵の上に載っている。
手を伸ばせばすべてを掴めそうなのに、手を伸ばすと、そこには何もない。
そこに在ったはずのものは、ずっと後退している。

下手なちょっかいを出すのをやめると、夜はあなたの中に染み込んでくる。
そのままずっと夜と同化していれば、あなたはいつの間にか夜になっている。
夜になって、夜と同様のトリックを使うことができるようになる。

しかし、気をつけなければいけない。
夜が後退し始めたら、すぐに自分の場所に戻ること。
さもないと、ネコに倒されたゴミバケツのような無残な姿を
日の光の下にさらけ出すことになる。

05.01.12

おはなし

微量毒素