微量毒素

おはなし

いつまでもしっくりと来ない夜
李・青山華

回りが暗くなって、世界はすっかり夜だ、と装っているのに、
いつまで経っても夜に馴染めない時がある。

暖かく響いていた、家族の団欒の声も聞こえなくなり、
何かに驚いて吠える犬と、車の走行音だけが遠く聞こえる。

これは確かに夜だ。なのに、身体が夜を受け入れない。

神経は昼間のままで、鋭敏さのない、確実さ重視の設定のままである。
カーテンを開けば、燦々と日が入ってきそうである。
もちろん、外は夜なのだが。

頭の奥はずっしりと重たくなってきている。
これは、おそらく眠気だが、昼間のままの身体は、その眠気を拒否している。

夜だ、と自らに言い聞かせて寝床に入っても、まぶたは一向に閉じようとしない。
やらなければならないことが頭の中で段取りを踏み出している。
外はもう深夜だというのに、優しく眠りに押し付けてくれる夜の気配は、
ついに来ない。

外の闇に白い光が混じり始めた時、何かやらなければいけないことを
やり損なったような気分を感じて、寝床の上に身体をもたげる。
身体は重く、何もかも億劫な気分になっているが、
あと数時間でまた外に行かなければならない。

睡眠不足を懸念するが、一晩の不眠はそれほどの代償を求めない。
いつもより頭の回りが少し遅くなっているが、日常の中では、
それは大きな問題にはならない。
いつかしっぺ返しが来るのではないかと怖れるが、何もないまま一日は終わり、
夜になってもいつも以上に眠くなるわけでもない。

そして、いつもの時間に、いつものように床についたあなたは、
しかし突然夢も何もない世界に沈み込んでいる。

05.02.16

おはなし

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