微量毒素

誰かの死んだ日の夜 おはなし

父親の死んだ日の夜
李・青山華

父親が死んだ日は、ショックと悲しみと、死に伴う雑務に追われ、あまり物を考え
なくて済む。そして夜になると、雑務もショックも消え去り、現実が、明確な死の
認識を迫ってくる。そこで振り返ってはいけない。

振り返ると、自分の中に確かにあった大きなもののところに大きな穴があいて、
その中に闇が詰まっているのが見えてしまう。それを見てしまうと、激しい慟哭が
止まらなくなってしまう。慟哭がおさまる頃には、現実と独りで向き合わなければ
ならないという事実を受け入れるだけの、覚悟と力が湧き出てくる。


振り返らなければ...?

振り返らなければ、あなたは大きなものの喪失と向き合うことなく、今までどおりの
日々を送ることができるだろう。背中のどこかにそくそくとするような、うら寒さを
覚えながら、覚悟も何も持てないままに。

85.06.21

おはなし

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