微量毒素
おはなし
上着を脱ぐ
李・青山華
気候が日々暖かさを増し、出歩くと汗ばむような日が増えてくる。
当然のようにコートを脱ぎ、上着を脱ぎ、セーターを脱ぐ。
初めはおそるおそる、季節の顔色を窺いながら。
夜が更けても、皮膚を刺す寒さがないと知ると、投げ捨てるように。
枷にも似た重い衣服から解き放たれ、人は必要以上に気分を浮かれさせてしまう。
緩む頬を持って、人は用事もないのに春の中へ迷い込む。
そのような理由で春の夜は、重い衣を脱ぎ捨てて
ふわふわと飛び回っている人間で満ちている。
おはなし
微量毒素