夏の朝 |
李・青山華 |
どこか遠くで鳴り渡る神経をかき乱す連続音。 その音源を沈黙させるすべを、少し前までは確実に知っていたはずだが、 今はどうすれば腕をあげられるのかすらあやふやで、どうにも困惑している。 渾身の力をこめて身体をひねると、 少し遅れて地平線のかなたから自分の腕が立ち上がってくるのが見える。 悠久の時間を経て、その腕が自分の右側に着地する。 目の前に見えるのはくしゃくしゃになった白い布地。 その少しざらつく肌触りが、少しずつ認識を現実に近づけてくれる。 記憶というより第六感によって、鉛のように重い手を伸ばす。 手の届いたそこには不自然なほど滑らかな存在があり、 触れた手の自然の重みで突出した部分が沈み込む。 するとあれほどに鳴り響いていた金属音が消え、再びあたりは安寧の地と変わる。 しかし安寧の地に沈み込んだ途端に、煉獄がまた開いたことを知る。 さっきまで包み込まれていた安らぎが、謂れのない不安を呼び覚ます。 謂れのない? 不安はすべてを拒否する心に、あまたの記憶をなだれ込ませてくる。 そして原罪は泥のぱんぱんに詰まったずた袋を引きずり起こさせる。 これがあなたの心。 そしてあなたの身体。 輝かしい夏の一日が、また始まったのだ。 |
05.07.13 |