微量毒素
おはなし

Autumn

夕暮れ

李・青山華
 ほかの季節と違って秋は日が落ちるのが早い。暗くなってきたなと思うと、あっという間に真っ暗になってしまう。だから秋の夕焼けは黒を基調にして、そこに朱が混じることになる。夏の夕焼けよりも抑えられた分、より大人に似合う色調である。この色をまとうのは人生をたっぷりと生きて様々な経験をした者にふさわしい。それも慶事には向かないだろう。

 子供たちもあまりに早く暗くなってしまうので、夏のように遅くまで遊んでいることができない。別れの言葉もそこそこにそれぞれの家に戻って行く。帰り遅れた子供は下を向いて家路を急ぐ。

 秋の夜は人気がない。ひたすら虫たちが死に向かうためにこの季節を謳歌している。自分と生を共にしてくれる伴侶を求めて歌い、春に生まれ出てくるであろう自分たちの子供たちのために、夜を込めて祈りの歌を捧げているのだ。

 秋の夕暮れは全ての生命に、身の回りを整理して、来るべき死の季節に備えよと告げている。だから秋の夜、電車の車窓から見える家々の光はあんなにも懐かしく、戻るべきところを思い起こさせるのだ。
05.09.21
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