微量毒素
おはなし

Autumn

秋のエッジ

李・青山華
 秋は全てのものにエッジが立つ。

 秋の風は硬いエッジを持っていて、温もりを速やかにかきとっていく。
夏のような存在感も春のような包容力も見せず、通り過ぎていった後、かきとられた後に初めてそれに気づく。
秋の風は予告する手間も報告する手間もとろうとしない。すべて終わってからこちらが気づくしかない。
 秋の空は高いエッジを持っている。
手の届きそうな夏の空とも、自分のいるところからずっとつながっているような春の空とも違う。その高さは絶望を感じるほどに遠く、高い。
秋の空はそれ自身で完結しており、こちらのどんな働きかけも受け取ろうとしない。

 秋の心は冷たくエッジを立たせる。
夏の間力の赴くままに続けていたあらゆることを見立てなおし、冷静に判断を下す。続ける必要なないものは止める。
曖昧なままでもいいから続けていたかったことも、秋の心はすべて切り捨てていく。
切り捨てられたものはいつまでも鮮やかな切り口を晒して苦しんでいる。

 秋は澄み切って美しい。
それは澄み切れないものは排除される仕組みによるもので、その故に秋はいつもよそよそしいのだ。
05.10.12
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