微量毒素

おはなし
拳銃の形の木片
李・青山華

あなたは子供である。あなたは林の中で、妙な形の木の枝の切れ端を拾う。手に
しっくりと合う持ち手。そこからすらりと伸びる真直ぐの枝。その交叉点には、
人差し指をかけられるような出っ張りがある。これが引金である。ずっと前から
そうであったように、その木片は銃として、あなたの手の中にある。

あなたは色々なものに銃を向け、撃ってみる。もちろん、何も起こらない。その
うちに、林の中、木の後ろに悪いものが現れる。木の陰になっていて、確認は
出来ないが、それは間違いなく、悪いものなのだ。

あなたは、自身も身を木の陰に潜め、相手の様子を窺う。相手は急に消えたあなたを
探し、木の陰から不用意に身を表す。ぱん。弾丸は相手を射抜き、相手は倒れる。
突然、森がざわめき、そのざわめきから、あなたは敵が大勢いることに気付く。
あなたは振り向き、背後の木を撃つ。そこにも一人、敵が潜んでいたのだ。敵は
静かに崩折れる。

あなたは林の中を走りながら、相手を撃つ。弾丸は面白いように当たり、敵は次々と
消えていく。そしてあなたは木立を抜けた正面にいる相手を撃つ。

その相手はあなたの気配を感じて振り向くが、すでに弾丸は発射されており、あ、とも
言い終えぬ前に、相手は崩れ落ちる。あなたは、自分が間違ったものを撃ったことを
知る。あなたは自分が絶対に守らなければならないものを撃ったのだ。

あなたはその相手から離れた位置に立って、ずっと考えている。考えに考える。
考えているうちに、自分が何も考えていないことに気付く。あなたの右手は半ば
無意識のうちに上がり、側頭部に押し付けた木片の引金を引く。あなたは倒れ、
そしてそのまま起き上がらない。

おはなし
微量毒素