微量毒素

おはなし
蛍火
李・青山華

蛍の灯は、生きている灯ではない。
熱もフレアもない、冷たく死んだ火である。
だから草の陰で青白く光る蛍火を見ると、人は胸を突かれるのだ。

草の陰にしゃがんで、こちらを覗っている死児に
見つめられているのに気付いてしまった時のように。


そして、蒸し暑い6月の夜に、蛍たちは舞い狂う。
死者がこの世を懐かしんで踊り狂うように。

幾千の蛍たちが飛び回り、あたりは蛍火でいっぱいなのに
その火は足元を照らさない。
闇の一部を半径3センチに切り取って見せるだけだ。

その光景は本来不気味であるはずなのに、
なんとも美しく清らかな光景なのだ。

ましてその舞が、実は光を出さない配偶者を求める性の乱舞だとすれば、
人は畏れるべきであろう。

なのに私たちは肉欲に満ちたその舞を、
天上の、あるいは地下の深奥の神々、
あるいはそれに類するものに奉げられる
舞いであるかのように誉めそやすのだ。
あるいはそれこそが正しい受け取り方なのかもしれないが。

彼らが清らかな水にしか住めないというのも、
元々の出自が異界であるからなのかもしれない。

05.06.22
おはなし
微量毒素