微量毒素

Water おはなし
どぶの中で揺らめいているのは
李・青山華

立ち上がる悪臭で、ふだん覗き込むこともないどぶ川を、
ふとした弾みに覗き込んだ。

澱んでいるように思えたのだが、流れはある。
せせらぎの音を腐泥に吸収されて、音も立てずに水は流れている。

表面に浮かび、光を反射する油膜。
流れに棹差す廃棄物の周りにじっと寄り添っている
口唇ヘルペスのような不健康な細かい泡。

川の底は泥で滑らかに形造られている。
泥のように見えるが、掬い上げると腐臭を放つ死んだ土だ。


その泥の中で何かが揺らめいている。
何かに引っかかったビニールか、捨てられた雑巾か。


音もない流れの中で、その何かはかすかな舞を続ける。

悪臭を忘れて覗き込むと、それはこちらにちらりに視線をよこし、
身を翻して暗渠の中へ消えていった。

05.06.29
Water おはなし
微量毒素