Night
祭りで賑やかな対岸を見る此岸
李・青山華
賑やかな祭りの夜。人混みに疲れて、横丁に逃れる。よく知っているはずなのに暗い道はまるで別の世界のよう。戸袋が鈍く闇を溜め、ふたの外れた側溝が暗いあぎとを開いている。朝顔の蔓さえ誘うように揺れている。忍び笑いを漏らしながら路地を抜けると、橋がある。その橋を渡って向う対岸は祭りの夜とは思えないほど沈み、暗い。
渡った対岸から祭りを見る。自分たちも沈む闇の中から見る祭りはいっそう華やかで、物哀しい。物哀しい? そう、祭りはいつでも終わりを秘めているから。
いつも埃っぽい道に一夜広がる夢の世界。迷い込んだら抜け出せなくなりそうな雑踏。いつもひっそりと静まり返った街並みに、どこにこんなにいたのかと思うほどの人が溢れ返る。翌日はちぎれた吹流しが脇に蟠ってまだ祭りの気配を残しているが、それもそそくさと片付けられて、あっという間に町はまたまどろむように静まり返る。
でも今はまだ祭りの真っ最中。町はどこか浮気な熱気に浮かされて子供たちが通る。お兄さんたちが通る。お姫様たちも通る。昔を懐かしむように大人たちもそぞろ歩く。たくさんの手に金魚を入れた袋が下がり、はっかが咥えられ、景品が手渡される。綿菓子が紡ぎ上げられ、たこ焼きがくるりと回され、七色のカキ氷が受けとられる。一晩限りの魔法。陽の下で見たらその魅力のほとんどを失ってしまうものたち。でも此岸からはそのどれにも手が届かない。
うっとりと祭りの喧騒を眺めていたが、突然気付いた。祭りの時間はもうとっくに終わっているはず。時計がないのではっきりとはわからないが、もう真夜中を疾うに過ぎている時刻だ。親しんでいるこの町に夜を明かす祭りはない。
「何でこんな時間にお祭りをやっているの?」
問いに、怪訝そうな問いが重なる。
「祭り? 祭りって何?」
振り向くと対岸は暗く静まり返っている。一瞬前まであれほどに華やいで、明るい光の中を歩き回っていた人たちは一人もいない。もう千年も前からそうであったように。
「そろそろ帰ろうか」
その言葉に促されて2−3歩歩き出すが、いったいどこに帰っていいのかまったく思い出せない。
04.10.13