微量毒素

おはなし

ひぐらし
李・青山華

暑さが当たり前の毎日、酷暑のさなかでもセミたちは鳴き続けている。生命の喜びというより、まるで機械のような単調さで、セミたちは鳴き続け、その鳴き声が幾重にも重なっていき、全てのものを包み込んでいく。暑さの中、その鳴き声を聞きながら働いたり、遊んだりしていた人間たちは、ふと気付くとあたりがまぶしさを減じ、鳴き声がヒグラシのそれに替わっていることに気付く。

昼間のセミの声が、その量から、機械的な音響としか聞こえなかったのに、ヒグラシの鳴き声は、どれほどセッションの数を増やしていっても、何かを惜しむような嘆きの歌に聞こえるのは、何か意味があるのだろうか。

ヒグラシの歌は、あたりが翳り始めてから、日が暮れてしまうまでの間の、短い時間指定のコンサートであり、人の気を不安に誘うこのエレジーの合唱が終わると、今度は水上音楽隊の、どこか陽気な濁音の大合唱が、夜をこめて続くことになる。人はその歌を聞きながら、寝苦しい夜の、彩色された夢を追うことになる。

04.10.04

おはなし

微量毒素