微量毒素

黄の魔歌 〜ユニコーンの角〜 p.10


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 エツコとキスゲはたびたび一緒に話をするようになった。キスゲはエツコに無理やりエツコのうちに引張っていかれ、家族に紹介された。エツコはいったいどういう話をしているのか、エツコの家族は、キスゲに、いつもおうわさは聞かされています、楽しいお話を聞かせてくれてありがとう、などと話した。後でエツコの首を絞めてでも、白状させることにして、キスゲはにこやかに、いえいえ、こちらこそエツコさんにはお世話になってばかりで、と返した。キスゲの印象はなかなかよかったらしく、辞去するときには、ご両親が出てきて、また来てくださいね、と繰り返され、キスゲはずいぶんと恐縮してしまった。

 そして今度は、エツコを家に招かされることになった。いや、招かせていただけることになった。


 夕食のあと、洗い物に立った母親のところに食器を運びながら、キスゲはなるべくさりげなく装って母親に告げた。

「おかあさん、あのね...友だちがうちに来たいっていうんだけど、あした連れてきていいかな。」

「お友だち?」母親は驚き、食器を洗う手を止めた。

「うん。白鳥エツコさんていう子。何か?」

「だってあなた、今まで友達の話なんてしたことがなかったから...」

「別にいいよね。私の部屋に上げるんだし。」

「え、ええ、いいわよ。いつって言ったっけ?」

「あした。」

「そんなにすぐ?」

「何でよ。何かあるの?」

「いや、おもてなしの準備もしなくちゃならないし、美容院にも行かなくちゃ...」

「おかあさん?」

「ああ、うち中の掃除もしなくちゃならないし、あああ、庭の手入れもしないと...」

「おかあさん。来るのは私の友達よ。婚約者とかが来るんじゃないのよ?」

「ああああ、でもこのままじゃ...」

「大丈夫よ。普通にしておけば。おもてなしなんていらないわよ。私がお茶くらいいれるから。」

「そうなのかしら...」

「そうよ。だから変な気は使わなくていいからね。」

「そうかな...」

「だから、あした連れてくるからね。頭にだけ入れておいてくれればいいから。」

 まだ、でも...とか言っている母親をおいて、キスゲは台所を出た。出たところで、壁に寄りかかり、ほうっとため息をついた。何か大事業を成し遂げたような気持ちで、キスゲは部屋に戻ったが、何か、甘いような、柔らかな気分がキスゲの中を満たしているようだった。

 そして、軽くため息をつき、部屋の片付けに取りかかった。キスゲは友人を招く、ということを、まったく考慮していない部屋作りをしていたので、その調整には、けっこう手間がかかりそうだった。いや、もう少し正確に見積もれば、作業の完了は、夜半を大きく過ぎるであろうことがはっきりしたであろう。それも、最低限の対応をした場合の話である。キスゲはもう一度、今度は大きくため息をついた。


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