微量毒素

黄の魔歌 〜折れた角〜 p.4


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「ずいぶんのどが渇いちゃって。こんなに続けてしゃべったのは生まれて初めてです。喋るのってのどが渇くものなんですねー。」キスゲが顔を出した。

「ところでおじさま、おじさまの目的はまだ聞いちゃいけないですか?泊まるのを認めてくれたんだから、もう共犯関係ですよね、おじさま。それとも、これぐらいの共犯関係じゃだめですか?女子中学生を泊めて何もするつもりがないなんて、すごくうさんくさいし。」

「最初に言っておくが、「おじさま」はやめろ。おりゃ25だ。プラタナスと呼べ。できれば「さん」をつけてな。おまえが何かを決断できるとおれが思ったら、おれの目論見を話してやる。それまでは何も教えない。おれが怖ければいつでも出ていっていい。止めやしないぜ。約束する。」

「...わかりました。ところで、プーさんて呼んでいいですか?」

「だめ。絶対、駄目。プラタナスさん、と呼べ。」

「長すぎます。プラさんは?」

「却下。」

「ナスさん?」

「わかった。やめろ。おれが悪かった。プーさんでいい。最近の女子中学生は、やっぱりとてつもなく失礼なんだな。今度の件でよくわかった。」

「はちみつ、好きですか?」

「なんだ?それ?」

「あした教えてさしあげますわ、プーさん。」

「もう寝ろ。」

「部屋にカギはついてますか?」

「幸いなことについてない。楽しみに待ってろ。」

「疲れているのですぐに寝てしまうつもりですけど。いらっしゃったら起こしていただければ、子守歌ぐらいは歌いますよ。」

「朝まで寝られなくなるから覚悟しておけよ。」

 キスゲはあくび交じりに伸びをしながら言った。

「その気もないのに子供をからかうのはよしてください。子供がその気になったらどうするんです。」

「その気がないって?」

「その気があったら思わせぶりなことばっかり言ってないで、何らかの行動に移りますよ、普通。子供と違っておじさま方はお忙しいのですから。次の日のことを考えたら、さっさと楽しんでお休みになられるのが当然でしょ。」

「...参ったね...」

 キスゲは頭をかいているプラタナスに射るような視線を向けた。

「冗談の煙幕でぼかしても、あなたの真意は隠しきれていません。あなたが私に求めようとしているものは、セックスなんかより、もっと私にとって悪いものなのかもしれない。でも、いいです。できれば明日には教えていただきたいところですけど、難しいかもしれませんね。いずれは知ることになるわけですから、私は待ちます。」

 プラタナスは彫像のように動かない。グラスの氷が溶けて、かすかな響きを伝えた。


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