微量毒素

黄の魔歌 〜打つも果てるも〜 p.5


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 トレーニング室で、ユカルはコジローを見つけた。マシントレーニングをしている。ユカルは、先日の話をコジローとしたくて、近づいた。

「コジロー、ちょっといいかな。」

 コジローは、冷たい目を向けた。前に見せてくれた目とはぜんぜん違う、あくまでユカルを拒絶する目だ。

「この組織では、個人間の交流は必要とされていない。そうだな。」

「でも、仲間なんだから、ちょっとは聞いてくれてもいいじゃないか...」

「仲間など要らない。それに、おれは違うチームだ。あちらのヴァルハラさんと組むことになった。」

「そうなんだ...」

 コジローは、マシントレーニングに戻った。ユカルの干渉を、完全に拒絶している。ユカルはこれ以上、する話も思いつけず、メンバー組みについて、ヴァルハラに確認してみることにした。



「ねえ、ヴァルハラさん。ちょっとお話したいんだけど、いい?」

「いいよ。もう、いい加減、トレーニングがいやになってたとこだから。」

「嫌なら答えなくてもいいけど、どんなことが得意なの?」

「聞いていいよ。僕はね、お薬を使うの。」

「薬...」

「すごいよ。ゾウでも3秒で寝る薬とか、カエルを5秒で寝させるクスリとか。タバコに仕込んで、それを吸った人を殺人狂にするクスリとか。水虫を完全に治すクスリとか、ガンを消すクスリとか。惚れ薬もあるよ。」

「惚れ薬?」

「うん。飲んだ人はね、相手の人の息をかけられただけで、エクスタシーになるの。完全にその人しか頭になくなって、ずっと尽くしてくれるの。」

「すごいじゃない...」

「でも、ちょっと、副作用があってね。1週間くらい経つと、飲んだ人は突然死んじゃうの。」

「ちょ、ちょっと。それじゃ、使えないじゃない。」

「さあね。人それぞれだし。使った人はいるよ。」

「どうなったの?」

「飲んだ人は死んだよ。飲ませた人は、気違いみたいになって、僕のところに来たよ。説明書をつけといたんだけど、ちゃんと読まなかったみたいだね。」

「だって、そんな大事なことは、口で言っておけばいいのに...」

「めんどくさいよ。ひとりひとりに説明してあげるなんて。そのために、ちゃんと説明書があるんだからさ。その人、そのあと毒薬を買っていったよ。死んだあと、溶けちゃう奴。お墓の上で飲むんだって言ってたな。」

「止めなかったの?」

「なんで?お客さんなのに。」

「...他の薬も副作用はあるんでしょうね....」

「あるよ。水虫の薬は、水虫菌があるところが、ぜんぶ溶けるくらいだけど、ガンの薬は、ガン細胞がなくなるんで、あったところに穴ができちゃう。だいたい、腹膜炎になって死ぬね。ちゃんと、説明書には書いてあるけどね。」

 ユカルは、これ以上会話を続ける気力を失って、言った。

「ヴァルハラさんは、コジローと組むの?」

「そうだよ。目は片目だけどね、なかなか礼儀正しいね。今度は、変な薬を使わなくてよさそう。」

 ユカルは、ついコジローの前任者の運命を考えてしまい、首を振って、不吉な考えを追い払った。

「そうか...」

「惚れたの?惚れ薬、いる?高いけど。」

「副作用で死なないやつはあるの?」

「んー、今のところ、最長で1年まで。体質によっては、もっと短くなっちゃうな。」

「遠慮しとくわ、とりあえず。ありがとう、ヴァルハラ。」

「君も礼儀正しいね。気に入ったよ。何かあったら言ってね。商売抜きで、お手伝いするよ。」

「ありがとう。心にとめておくわ。それじゃ。」

 トレーニング室を見回したが、コジローはもういない。トレーニングを終えて、帰ったようだ。ユカルは、現状のまま、宙ぶらりんでいるのが嫌だったので、次の行動を考えた。自分のことに関しては、ユカルは緻密な計画を考えられないようだ。考えた結果、ユカルはすぐにコジローの部屋を訪問することにした。


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