微量毒素

白の魔歌 〜エリカ〜 p.6


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イガは、アユミとエリカと一緒に、喫茶店に陣取った。

「はじめまして。私はイガと言います。」

「私はアユミ。で、こちらが...」

 二人はエリカのほうを見た。エリカも、仕方なく名乗った。

「エリカです。よろしく。」

 アユミは、イガを見て言った。

「とうぜん、おごりよね。」

 イガは頷いた。アユミは手を上げて、ウェイトレスを呼んだ。

「私はチョコパフェ。エリカは?」

「ミルクティをお願いします。」

「ブレンドで。以上です。よね?」

「とりあえずは、以上です。」

 アユミが不気味なことを言った。エリカはイガの方を見て言った。

「私はアユミに付き添って、勝手に来てるんで、自分の分は自分で払います。」

 アユミは、このカウンターパンチを受けてどうするか、興味津々でイガを見た。イガはさすがに痛そうな顔をしていた。

「アユミさんとのお話ですけど、エリカさんにも聞いていただきたいので、お二人分、持たせていただきたいんですが。」

「けっこうです。」

「わかりました。じゃあ、アユミさんの分だけ、おごらせていただきます。」

 引き際はなかなかよろしい。アユミは判定した。で、これからどうするんだろう。

「おふたりが所属しているのは、テニス部になるんですか?」

「いいえ、同好会です。テニス部は、全国を目指しているんで、並みの人間は入れてもらえないんです。まあ、同好会でも、そこそこやってますから、このあたりの大会では、けっこう上位に顔を出すこともありますよ。」

「道理で。部にしては時間帯が変だし、遊びにしては力が入っているし。どういう集まりだろうと思ったもので。同好会ってことは、短大ですか?」

「ええ、そうです。なんで同好会だから?」

「あれだけ打てれば、普通は部に入って、全国を目指そうとするでしょう。でも、短大だと、ようやくいいところに来たところで卒業してしまうことになるから。だから短大かと思ったんです。」

「お世辞でもうれしいですね、誉められるのは。」

「お世辞になるのかどうか。やっぱり残念でしょう。」

「その気になれば、どこでもできるじゃないですか。ま、そこまでやるかどうかは別ですけどね。」

 イガは頷き、座りなおして言った。

「ところで、お時間は大丈夫ですか。これから何か、予定があるとか。」

「私はありません。エリカは?」

「別にありません。」

「いや、これからデートとかがあると、遅刻させてしまったりしては申し訳ないと思ったもので。」

「私はダーリンがいますけど、きょうは会う予定がなくて。とても寂しいですわ。この子は、今のところ、私以外にステディがいませんの。」

「へえ。何でですか。たくさん声をかけられるでしょう。」

 エリカはイガを冷たく見返した。

「たくさん、声をかけてきます。でも、私自身、そういうのに興味がないので。」

「この子はまだ、未成熟なんですよ。まだまだ子供なんです。ボーイフレンドのよさがわからないくらいに。」

「ボーイフレンドはいるわよ。」

「会って、テニスをするだけの相手はいるでしょうよ。でも、そこから先が楽しいのに。いつも先に帰っちゃうの。つまんないんだよね。イガさん、ちょっと教育してあげてくれない?」

「教育できるほどの知識も技術もありませんが、お役に立てるものなら立ちたいですね。エリカさん、いかがですか?」

「興味ありません。そういうお付き合いにも、あなたにも。」

「き。きっつー。」

 アユミは思わず声をあげた。エリカもさすがに言い過ぎたと思ったのか、少しそわそわし、場を外した。イガは、意外に平静に受けている。エリカが席を立った隙に、アユミはイガに囁いた。

「よく受けたわね。普通なら、あれで消えてゆくところよ。」

「まあ、これくらいは予想していましたから。きついはきついですけど、あの人は、ほんとうは誰かにそばにいて欲しいと感じているんじゃないかと思うんです。自分でも気付いてないかもしれないけど。」

「ふうん。けっこう言うわね。」

 アユミはイガを試すように眺めた。

「わかってる?私はエリカに恋の一つもしてもらいたいから、あなた相手に道化になってるんだからね。あの子を不幸にしたら承知しないよ。」

「わかってます。ご協力、感謝します。」

「あんた、大丈夫かな。いい恋になるかしら。」

「なりますよ。任せてください。」

「だから、その安請け合いが軽薄な感じなのよね。ちゃんとしてよ?」

「ラジャ。」

 エリカが戻ってきた。アユミはいきなり厳しい話題を振ってきた。

「そもそも、なんであんた、そんなにエリカに興味があるの?」


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