微量毒素

白の魔歌 〜友だち〜 p.4


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 大学の教室。アユミがエリカに訊いた。

「彼氏との中、うまく行ってる?」

「彼氏じゃないわ。いい友だちよ。」

「ほんとに?少しは昇進しないの。」

「ええ。ぜんぜん。」


 中央通りを2人で歩きながら、イガがエリカに訊いた。

「私とエリカさんの関係はどういう関係なんでしょうね。」

「友だち。」

「そうですかね?」

「友だち。ただの、友だち。」

「友だちとは、少し違う何か、ってないんですかね。」

「私はあなたにキスしたくならない。それが証拠。」

「なんてこった...じゃあ、どういう類の友だちですかね、我々は。」

「友だちとして、あなたのいいところは、
 テニスがうまくて、教え方もうまいところ。
 いろんな楽しめる場所を知っていること。
 自分の意見を押し付けないところ。
 だから、衛生無害な、とっても紳士のお友だち。」

「...なんて絶望的な答えだろう...じゃあ、スケートにでも行きますか。」

「それ、いい。行きましょう。」


 いつもの喫茶店で、アユミはイガの話を聞き、思わず言った。

「そりゃ、ちょっとひどいね。」

「私もそう思います。」

「イガくん、君はこの子と切れた方がいいよ。」

「うん。私もその方がいいと思う。」

「ちょっと待った。もう少し、別のアプローチで検討してみましょうよ。」

「何もしないのが良くないのね。してみたら?ねえ、エリカ、ボランティアということで、イガさんといたしてみたら?」

「なんて危険で、魅力的な提案だ...」

「いや。」

「かわいそうに。目の前に餌があるのに、待つだけ待たされてお終いね。」

「そう考えるんだったら、他のもっといい人を捜せばいいんだ。」

「いません、て。」

「いやいや、そう捨てたものでもない。イガくん、レイコはどうかね。どうも、イガくんを憎からず思っている節があるぞ。」

「うーん、ミナコさんの方がいいような気が...マリコさんとチハルさんもいいですよね。んー、選ぶのが難しいな。」

「ほんとに、いっぱいいるじゃない。イガさん。」

「ええと、話を戻そう。やはり、他の女性を検討してみてはどうかね。イガくん。どうも、まったく脈がなさそうだぞ、この子は。」

「ほんとうに、そうしたほうがいいですよ、イガさん。」

 エリカの言葉に、さすがにイガも落ち込まされたようだ。本当に真剣に、エリカが言っているのがわかるから、なおさらである。

「さすがに、ちょっときつかったですな、今のは。お付き合いくださって、ありがとう。それじゃ、今日はこの辺で...」

 イガは、二人と別れ、脇道に入っていった。その先がどこに通じているのか、アユミもエリカも知らない。落ちた肩が、イガの落胆を示していた。アユミは、平静さを示していたが、エリカにかなり腹を立てているようだ。声の平板さが、それを物語る。

「ここまでは、冗談で済ませてもいいわよね。でも、あいつは今ので、かなり傷ついたと思うよ。」

 エリカも、精一杯の虚勢を張る。

「だって、ほんとのことでしょ。いやなら、他の子に声をかければいいんだから。」

「できるのなら、とっくにそうしてるさ。あんた以外じゃ駄目なんだろ。あいつにとって。」

「ああ、そうなのかもしれない...でも、私はこれ以上進みたくないんだ。」

「そりゃ、残酷だよ。だったら、拒絶すればよかったんだ。」

「したよ。したじゃないか。それを面白がって焚き付けたのはアユミじゃないか。」

「確かにそうだったね。あたしも同罪だ。じゃ、今は?過去はどうでも、今はどうなのさ?」

「イガさんのこと、きらいじゃない。ずっと友だちでいたいってのは、いけないことなのかな...」

「あんたの歳じゃ、おかしいんだよ。ま、彼がまだこの状況を楽しめるようなら、様子を見よう。お茶、飲んでく?」

 いつの間にか、アユミのアパートに着いていたのだ。エリカは少し考え、言った。

「いいね。いただきます。」

 二人はアユミのアパートに入っていった。


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