微量毒素

白の魔歌 〜大学祭〜 p.8


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★ とにかく、知名度を上げるべきこと(2)

「じゃあ、今度は学園祭自体の宣伝について検討してみましょう。とにかく、お客さまを増やすためには、宣伝が必須ですからね」

 サエリが言った。クレハが答える。

「タウン誌と新聞にはお願いするつもりなんだけど、他にはどんなものが考えられるの?」

 エリカが言った。

「テレビがいいと思います。父が言っていたんですが、ローカルテレビって、けっこう地元の情報提供番組なんかで、地元のイベントのニュースを欲しがってるんだそうです。行ってみる価値はあるんじゃないでしょうか」

「おや、いいねえ。きれいどころが宣伝すれば、来場者は倍増するだろうねえ」

 クレハが溜息をついた。

「アリサ、あんた今、自分が出ることだけを考えているわね」

「いやいや、そうは考えていないよ。私と誰かが出れば、と考えているんだ」

「やっぱり...」

 クレハをなだめるようにノダが言った。

「まあまあ、細かい話は先のことにして、それならラジオもいいよな。地方版、全国版を問わずに、葉書を出しまくれば、けっこう紹介してくれるんじゃないかな」

 ガチャが頷きながら言った。

「大学生ってリスナーも多いから、全学園に広報して、草の根でやってもらいましょう。数撃ちゃ当たるってこともありますし」

 アリサが入ってくる。

「メディア関係は、とりあえずそんなもんかな」

 フーが付け加える。

「パソコン通信のBBSやチャットもありますね。パソコンをやっている人に頼んでみましょう。PC研究会に中心になってもらえばいいと思います」

「よおし、それもあり、と。あと、ビラ配りは外せないよな」

 ノダが苦笑して言った。

「あんたのセンスって、なんか親父くさいんだよな」

「うまく行くさあ。きれいなお姉ちゃんがミニスカートでビラを配ればさあ」

「それじゃ、セクハラだよ。いよいよおやじだね」

 キャアコが考えながら言った。

「ビラは宣伝効果が長く保たないので、やるとしても前日か、前々日くらいですね。」

 一同は頷いた。

「提灯行列もインパクトあるわよ」

 アリサが提案した。ノダが苦笑して受けた。

「そら、インパクトはあるけどね...」

「駅前から学校まで、ぞろぞろと歩けば目を引くよ」

 アリサはなおも言い募ったが、サエリはむべもなく却下した。

「却下。手間がかかる割りに、その時にそこにいた人にしか宣伝効果がないから」

「そうかー。一度やってみたかったんだけどなー」

 アリサは残念そうだ。ノダも少し心惹かれたようだったが、アリサを説得した。

「面白そうだけど、人数が少ないと単なるおかしな人たちになっちゃって、学園祭の宣伝っていう本質とはかけ離れていっちゃうからね」

 サエリが面白そうに言った。

「まあ、アリサの結婚式の時に、再度検討しましょう」

「そりゃ、ずるいぜ。あたくしの時も、ぜひお願いしたいな」

 ノダが言うと、サエリも言った。

「いやだわ、私もやってもらいたくなっちゃったじゃない」

「私はいいわ。愛するダーリンと二人だけのための聖なる時間を、おかしな人たちのおかしな行列で汚したくないから」

 無謀にも言い放ったクレハは、全メンバーに袋叩きにされた。


「後は新聞とタウン誌の煮詰め、か。よし、この宣伝関係は全部経営研究会に任せてくれない?今まであがったのも含めて、全部うちで仕切るわ」

 サエリが言った。何か言いたそうなクレハの顔を見て、ガチャが言った。

「宣伝企画すべてについて、詳細な計画を作って、実行委員会に提出します。その後も、定期的に進捗を報告して、実行委員会の思惑と乖離しないようにしていきます」

「やってもらえれば嬉しいけど、大変よ。本当に」

 アリサの言葉に、サエリが答えた。

「何の何の。あんたらに比べれば楽なもんよ。少しでもお手伝いをしたいの。少しは信用してよ」

「わかった。全面的に信用しよう。あんたらに任せるから、失敗したら承知しないわよ」

「こけたら、そのときは磔でも鋸引きでも、何でもしていいわ。まあ、うちのメンバーを揃えれば、失敗なんてことはありえないけどね」

 アリサは頷いた。サエリも頷き、全メンバーが頷いて、意思統一を確認した。

「じゃあ、きょうはこんなところでしょうか」

 まとめに入ったサエリを、アリサが手を上げて止めて、言った。

「ああ、待って。もう一つあるの。無理かと思っていたけど、あんたたちが手伝ってくれるなら可能かもしれない。当日、花火を上げるのもいいんだけど、遠くで見てもわかるようなものがあるといいなと思ってたんだ」

「遠くから見てわかるようなもの?」

 ノダが聞く。アリサは皆を見回して言った。

「ねえ、広告入りの気球を揚げるっていうのはどうだろう。不可能だろうか」

「きゃあ、アドバルーンですか?いくらなんでも、お金がかかりすぎるんじゃないでしょうか」

 キャアコを押しとどめ、サエリが言った。

「いや、ちょっと待って。調べてみてくれる?キャアコ。まずは費用を確認してみる。後はその費用と、実現可能な部分の境界を見てみよう」

「任せたわ。いい知らせを待ってる」

 アリサの言葉に、サエリは返した。

「あんたはお金をどれくらいひねり出せるかを検討しておいてよ。言っとくけど、そんなに安くはないと思うからね」

「了解」

「じゃあ、よろしく」

「お疲れ様でした」

「計画は明日までに作ります。それを経研の中で検討して、あさってにはそちらに提出します」

 ガチャが言い、サエリが補足した。

「実務で進められる部分は、並行して進めていくから。」

「頼んだよ。もう、全部任せちゃったからね」

 アリサは経営研のメンバーにウィンクする。サエリはぐっと拳を握って見せ、ガチャは握った拳の親指を立てて見せる。キャアコは右手を振って見せた。

「それでは、きょうはお疲れ様でした」

 クレハが言い、全員が講義室を出た。外はもう暗く、生暖かい空気が全員を包んだ。

「きょうはこれからどうすんの」

 サエリが聞いた。クレハが答えた。

「宣伝関係をお任せできるなら、きょうはこれで解散しちゃってもいいんだけど」

「腹が減ったよな。これからみんなで食事に行かない?」

「いいですね、それ」

「中東料理かな」

「却下!」

「このあたりで?それとも町に繰り出す?」

「繰り出そうよ、せっかくなんだからさ」

「そうね。用事のある人はいいわよ。男優先だからね。いい加減、男をほったらかしにしてるだろうから」

 けっきょく、全員でバスに乗って繰り出すことになった。バスを待ちながら、色々な話が飛び交っている。エリカはふと、イガのことを考えていた。

(イガさん、私、すごく楽しいよ。どうしてわかるんだろう、イガさんは、私のいろんなことが)

 珍しく物思いに耽っているエリカを見て、ノダが嬉しそうに突っ込んだ。

「男だろ、その顔は。珍しいなあ、エリカが男のことを考えてるなんて」

 ええーっと挙がる黄色い声に、エリカは真っ赤になって反論した。

「違いますよ、そんなんじゃ、ありませんってば!もう、ノダさんったら」

 エリカの抗議に耳も貸さず、集団は黄色い声で盛り上がっていた。やがてバスがきて、集団が乗り込み、また学校前は静かになった。夜が深くなり、常夜灯の柔らかい光に照らされた学園も、静かにまどろんでいるように見えた。


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