白の魔歌 〜地吹雪〜 p.5
魔歌 |
何でか、妙に無垢の材がたくさん使われている、自然に優しいっぽい部屋。無垢の木材をたくさん使っているってことは、よりいっぱい自然破壊をしていることだと思うんだけど、なんで木を豊富に使っている家が、自然に優しいって思われるのかしら。「組織」とやらが私に与えてくれた住処なんだけど、木なら黒ずんでどっしりしたものがいいと思っている私には、ナチュラルカラーの明るい木材は、どうにも馴染めない。機会があったら塗り替えてやると思いながら、私は作業を開始した。とりあえず、最低限の身支度をした。TシャツにGパンの上から割烹着をはおる。頭にはバンダナを巻き、防塵めがねに防塵マスク。いい加減怪しい格好だわ。でも、これくらいはしとかないとね。 まず、ソファをひっくり返し、なにやらわからない絵の入った額縁を外した。家具をすべて動かし、部屋の隅からカーペットを剥がした。超強力掃除機で埃を吸い取った。カビの匂いはしないから、アルコールで消毒する必要はなさそう。次に、床と壁の隙間を丹念にチェックする。怪しげなところがあれば、携帯用隅っこほじくり 用鉄針でつついてみる。ここは大丈夫そう。カーペットの裏もチェックし、カーペットを元に戻す。 動かした家具類は、すべて裏、表ともチェックする。どうして、最近の家具はみんな、表側だけ、いい材を使って、裏は合板オンリーなのかしら。これじゃあ、親子代々受け継いでいけるような家具になんてなりゃあしない。でも、職人も減っているから、本物ってのは高価になりすぎて、それで合板家具がセミ本物になっているのかもしれない。金属探知機を当て、埋め込みがないかどうか確認し、元の状態に戻す。ま、危険がないなら、当座の使用に文句はないわ。 何をしているのかって?こういう世界で生き延びたければ、自分以外の誰も信用しないこと、ってのが基本なの。自分が捜して見つけたわけじゃないねぐらは、最初に徹底的に、そして定期的にクリーニングしないと、自分の行動が誰かさんに筒抜けになっていたりするものなのよ。盗聴器や、隠しカメラやら、何が仕掛けられているか、わからないの。引越し早々の大仕事だけど、これを片付けないと、安心できないから、もうひとふんばりしましょ。 ここは一般人も住んでいる、普通のマンションを借り上げているようだから、設計から怪しいことが組み込まれているわけじゃないでしょう。じゃあ、後は、おおどころの仕上げね。 ユカルは家具の下になる部分の床板を叩いた。音を確かめ、極太のカッターを取り出し、キチキチキチと床板に傷をつける。次に釘抜きを取り出し、壁側に木槌で打ち込む。3cmほど入ったら、壁側にぐいっと押し込むと、手前の傷をつけた部分が、バキンと音を立てて持ち上がった。左右5枚ほどを剥がして、床下に顔を突っ込む。 どうやら、床下にも手は入っていないみたいね。下はコンクリだから、とりあえず、貴重品はこの中に入れておきましょう。 ユカルは剥がした床の下部にバスタオルを敷き、小ぶりのジュラルミンケースを持ってきて、そっと床下に下ろした。上にまたバスタオルをかけ、床板を嵌め直す。きっちりと嵌めた上に、ラグを敷き、その上に洋服ダンスを戻した。 「次は...と。」 ユカルは上を見上げた。天井をぐるりと見回す。ユカルは手をパンパンとはたいて、リビングを出て行き、脚立を担いで帰ってきた。部屋の真ん中で、脚立を広げ、上る。照明器具を外し、床の上に下ろす。引っ掛けシーリングを固定しているネジを外し、ゾロリと配線を引っ張り出した。ざっと眺め、その穴からミニスコープを突っ込み、ぐるりと見回す。 天井も特に異常なし。特にこちらを覗き見したり、監視するつもりはなさそうね。ま、でも仕事はきっちりとやっておきましょう。後々のためにも。 ユカルは鼻歌を歌いながら、脚立を持って寝室の方に向かった。台所、浴室、玄関を一通り見て、満足したらしく、脚立を納戸に片付けた。 |
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大きいところはこんなもんね。後は、機械回りか... ユカルは工具箱を提げて、台所に向かった。大きなものを動かす音や、何かを外す音などが、楽しそうな鼻歌の合間に聞こえてきた。しばらくして、ユカルが戻ってきて、工具箱を納戸に片付けた。ユカルは部屋を見回し、うれしそうに言った。 「大掃除完了。あとは家具を戻すだけね。」 ユカルはカーペットを戻し、ひっくり返したものを、一通り元の状態に戻した。とりあえず、装備を解き、手洗い所で手を洗っていると、ノックの音がした。 「なんでインターフォンを使わないかな。」 ユカルは舌打ちして、インターフォンに寄った。 「どちらさまですか?」 「下の階の者です。」 あちゃ、うるさくし過ぎたかな、と思い、画面を見ると、コウガが立っている。 「どういうつもりだ?」 ユカルは呟きながら、玄関に向かった。ドアを開けると、コウガがやあ、と手を上げた。 |