白の魔歌 〜地吹雪〜 p.14
魔歌 |
今日で終わりよ、このお仕事も。一日、がんばろう。さすがに、日曜日だけあって、午前中からけっこう人出がある。 「パンフレットをどうぞ。」 「あり」 「パンフレットです。」 「おや」 「パンフレットを。」 「うあ」 「パンフレット」 「いえ」 「パンフ」 「ご」 「どうぞ」 「や」 「パン」 「うぃ」 「...」 「...」 11時くらいになって、ようやく波が小さくなった。一息ついていると、変なものが目に付いた。少し離れた建物の陰から、頭がぴょこぴょこ出たり入ったりしている。まるで、もぐら叩きか、わにわにパニックみたい。頭をつぶしちゃおうかな、なんて。何人もいるみたいね。昨日見失ったもんだから、きょうは間違いなく捕まえようってことかしら。あんなにしてると、目立つのになー。やっぱり、素人だなー。きょうはOKだわ。帰りに、襲われちゃおう。 「早乙女さん、昨日はちょっとお疲れのようだったけど、きょうはお元気ね。」 「え、そうですか?」 「ぜんぜん、活き活きした感じよ。ねえ、彼と、何かいいことでもあったの?」 「へ?」 「とぼけちゃって。昨日はデートだって、いそいそと行っちゃったじゃない。」 ああ、そんなことを言ったっけ、わたし。 「ねえ、何があったのよ。教えてちょうだいよ。」 「そうよ。わたしたちを置いてきぼりにしたんだから、それくらいはして欲しいところね。」 「えー、でも、ほんとに何もなかったんですよ。」 「うそ。絶対違うわよ。きのうとは、目の輝きが違うもん。」 「ほんとよ。声も張りがあるし。まあ、いいわ。後でゆっくり教えてね。」 「いらっしゃいませ。パンフレットをどうぞ。」 まいったな。やっぱり、そうよね。昨日あんなことを言ったら、自慢したいためだなんて思っちゃうかもね。今、元気が出てるのは、襲撃されるのが楽しみだから、なんて言えないもんね。ま、仕方がない。きょうはコウガさんとあたしの、架空のくんずほぐれつを、たっぷり聞かせてあげないといけないわね。ごめんね、コウガさん。キャラクターを貸していただくわ。お昼休みに備え、わたしは頭の中で、設定から考え始めていた。 「いらっしゃいませ。パンフレットをどうぞ。」 |
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昼休みが終わった時、私以外の人は、みんな少しおかしかった。女の子二人は、頬を上気させて、足元をふらつかせながら歩いているし、汗っかきの男の人は、へっぴり腰で歩いているし。なんか、ズボンに棒でも突っ込まれているみたいな歩き方。なんか、失敗したかな。用意しといた話をしただけなんだけど。 |
ユカルさんのお話し; |
村上さんと私は、わたしが公園でファッションショーのマヌカンとして出ていたときに、初めて出会ったわ。ショーのあとで、わたしが若い男数人に絡まれている時、助けてくれたの。備わっている貫禄が違いすぎて、実力行使に出る前に、若い男たちはこそこそ逃げていったわ。その後、お礼に一緒にお食事をして、家まで送り届けてもらったの。彼は紳士だったわ。 |
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話の後、なんか、みんなが引いてるみたいに感じたんだけど、設定がまずかったのかしら。みんな、ここまでの話は望んでいなかったのかしら。やりすぎたみたいな気もする、今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。でも、みんな、もっと聞きたがってたのにな。やっぱり、一般人の考え方は、よくわからん。まあ、いいでしょ。今日一日だから。自分の話のおかげで、世間話もしないで済んだし。ほくほくだわね、これは。でも、もうこりごり。もう一度こういうことをやらせようとしたら、キスゲちゃんを抹殺しよう。 |