微量毒素

白の魔歌 〜友だち〜 p.7


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 イガはムサシの部屋で寝転がって、「パプアくん」を読んでいる。窓は開けてあるが、暑い。汗まみれである。ムサシは、机から振り向いて、イガに言った。

「男が一人余分にいると、へやの温度が3度くらい上がってる気がするんだが。」

「気にしないでくれ...ちなみに女がいるとどうなるんだ...」

「...へやの温度が10度は上がるな。相手によるけど。」

「じゃあ、ここにいるのが俺でよかったじゃないか。」

「......」


 アユミは暑さの中で、ぼんやりとしている。きょうは彼もバイトで居ない。

「だる...」

 電話が鳴った。アユミはゆっくりと身を起こし、電話に近づいた。手を伸ばして、受話器を取る。

「もしもし。」

 答えた固い声は、聞き慣れたものだった。

「エリカ、どうしてる?相変わらず、電話は苦手なの?声が固いわよ。うんうん...」


 イガはムサシの部屋で寝転がって、「らんぽう」を読んでいる。窓は開けてあるが、暑い。汗まみれである。ルカは、机から振り向いて、イガに言った。

「イガさん、どこか行くところはないの?」

「気にしないでくれ...どこにもない...」

「わたし、これからムサシさんとお話があるの。しばらくおうちに帰ってて。」

「誰もいないんだぜ...」

「静かでいいじゃない。勉強もはかどるわよ。」

「今のおれには、「らんぽう」が限界だ。」

「いいから、行って。しっしっ。」

「若い男女が、二人きりで部屋にいるのはよくないぞ...」

「若い男女が、3人で部屋にいたら、もっとよくないわ。さあ、出て出て。」

「......」

 ムサシの家を追い出されたイガは、とぼとぼと自分のマンションに戻ってきた。郵便受けを除くと、手紙が入っている。取り出して、後ろを確かめると、エリカからだった。イガはその場で封を切り、読み始めた。


 暑中見舞いをありがとうございます。xx市にいる間、とてもお世話になりました。
両親が、友だちを海水浴にお招きしたらどうかといいますので、突然で失礼とは
思いながら、お手紙しました。

アユミに話したら、彼氏込みならいいとのことで、来てくれます。ムサシさんと
一緒に遊びにいらっしゃることは出来ないでしょうか。ムサシさんは、彼女が
いらっしゃるとのことですから、できれば、その方も連れてきていただけると、
楽しいと思います。

 勝手なお願いばかり書きましたが、よろしければいらっしゃってください。
お返事をお待ちしています。電話番号も書き添えておきますので、お電話でも
けっこうです。

 最後になりましたが、残暑お見舞い申し上げます。
ムサシさんにも、よろしくお伝えください。
それでは。


「海が近いから、遊びに来ないか、か。」イガはムサシの家に向かいかけて、足を止めた。公衆電話を捜し、電話をかける。

「もしもし、ムサシさんのお宅ですか?ああ、ムサシ、今、大丈夫?お取り込み中じゃない?ほんとうに?ああ、今戻ったら、エリカさんから手紙が来ててさ。海水浴のお誘い。それで、ムサシとルカさんも来ないかって。うん、そう。細かい話をしたいから、手が空いたら、俺んちに来てくれない?今?今すぐ?無理しなくていいんだぜ。待ってるから。今すぐ?じゃあ、わかった。待ってる。」

 イガは電話を切り、マンションに戻って行った。口笛を吹きながら。


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