青の魔歌 〜ガーベラ〜 p.2
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1 | イガとムサシ、決闘をする。 | p.1 |
2 | Old fashioned love song | |
3 | イガ、ムサシを無視する。 | |
4 | 朝のバスケ。 | |
5 | ガーベラとコウガ、昼休みにデートする。 | |
6 | ムサシ、クワノ、ハヤシ、イガを心配する。 | p.2 |
7 | ルカ、ムサシを問い詰める。 | |
8 | ガーベラ、コウガを撒く。 | |
9 | イガ、ルカと会う。 | |
10 | 夜遊び。 | p.3 |
11 | ガーベラ、イガの心を読む決意をする。 | |
12 | イガ、ムサシに決闘を迫る。 | p.4 |
13 | ルカ、ムサシに迫る。 | |
14 | ガーベラ、コウガの心を読む。 | p.5 |
15 | ガーベラ、故郷を離れる。 | |
16 | コウガ、ガーベラと別れる。 | |
17 | ムサシ、イガと決闘をする。 |
★ ムサシ、クワノ、ハヤシ、イガを心配する。 |
秋の風は、イガたちの通っている中学校も吹き抜けて行った。枯葉がそこここを舞っている。チィは弁当を広げようとして、ふと手を止めた。 「あれ、どうしたんだろ、あいつら。」 「だれら?」 エルが気がなさそうに訊く。 「ムサシらよ。あいつらが飯も食わないでどこかに行くなんて、あり得ないわ。」 チィはきっぱりと言い切った。 |
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クワノがドアを開けると、外は強い陽が射していた。片手をあげて光を遮ると、ハヤシとムサシがいた。ムサシは手すりに凭れて、誰もいない校庭を眺めている。 「遅いよ、クワノ。」 ハヤシが文句を言ったが、それほどいやそうでもない。 「悪い、悪い。で、話って?」 「イガのことだよ。」 クワノは右眉を上げた。 「最近、少し変じゃないか?もともと無愛想だけど、ここんとこ、それに輪がかかってる。」 ムサシは振り向いて、にやっと笑って言った。 「俺が決闘をすっぽかしたからかな。」 「違うよ。そりゃいつものことだろ。今朝もそうだったけど、無視なんてする奴じゃないよ。」 「最近、さらなる無愛想に目覚めたのかもしれないし。」 「違うよ。わかってんだろ。」 会話を聞いて、クワノが口をはさんだ。 「茶化してるな、ムサシ。何か知ってるのか?」 クワノは相変わらずストレートに打ち込んでくる。ムサシもまじめに返さざるを得ない。 「知らん。今朝もバスケの後に聞いてみたけど、何も言ってはくれなかった。まあ、言いたくなれば、言ってくるさ。」 ハヤシが食い下がる。 「いいのかよ、それで。」 「カマをかけても言ってこないんだぞ。言いたくないことかもしれないじゃないか。口を出したら、かえってまずいかもしれないだろ。」 「そこらへんは本人に任せようって?」 クワノが言う。ムサシは頷いた。ハヤシも納得したようだ。 「そうだな。じゃあ、様子見と言うことで。じゃ、さっさと行って、飯食おうぜ、めし。」 ハヤシがいちばんに屋上のドアから入っていった。クワノが続く。ムサシも、ゆっくりと暗い校舎の中に入っていった。 |
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ドアの開く音を聞きつけ、たこさんウィンナを食べようとしていたオソノが顔をあげた。 「あ、来た。」 ハヤシは嬉しそうに歌いながら歩いてくる。 「ご、は、ん、ンァご、は、ん、ご、は、ん、の、じ、か、ん♪」 クワノとハヤシは、ごそごそと弁当箱を取り出している。クミがたくあんをつまんだ箸でハヤシを指し示しながら言った。 「あんたら、どこで時間をつぶしてたんよ。」 弁当箱のふたをカパッと開けながら、ハヤシは言った。 「うんこ。連れうんこ。」 昼食時にふさわしくないその言葉を聞いて、チィが瞬時に反応した。 「くぉの、」 振り向きざまに弁当箱のふたを投げる。弁当箱のふたは、見事にハヤシの頭をヒットし、飛んだ。くるくると回りながら落ちてくるふたは、クワノがしっかりと受け止めた。 「あほたれ!この、食事時に!」 さらに襲いかかろうとするチィを、オソノがなだめる。そこへムサシが戻ってきた。ルカは荒れかけている座の気をそらそうと、ことさらに声をあげた。 「あ、ムサシさま。どこ行ってたの?」 ムサシは、何か考え事をしていたらしく、ルカの声で我に返ったようだった。 「あ、ああ。」 頭の回転が現実界にシンクロする前に、ムサシはもっとも安易な答えを口に出していた。 「うんこ。」 一瞬、場が凍結した。オソノは口を押さえた。 「あらら...」 チィは椅子を掴んで持ち上げ、ムサシを攻撃しようとした。 「わあっ。」 今度はエルが後ろから押さえたが、チィの戦意は衰えない。ハヤシがムサシに泣きついてきた。 「ムサシ〜、助けて〜」 「てめーら、神聖なご飯時を、なんだと思ってんのよ!」 チィに攻撃されようとしているむさしを見ながら、ルカは浮かない顔をしていた。騒動をじっと見ているルカに、オソノが声をかけた。 「何やってんの、ルカ。早くチィを押さえないと。」 「そうね...」 ルカはチィを止めに入りながら、どこかうわの空だった。そのため、チィの椅子を頭頂部に食らい、大きなこぶを作ることになった。チィは自分のやってしまったことで、正気に戻ったのだが、ルカは午後中ずっとひりひりするこぶと付き合うことになった。しかし、今のルカには、こぶの痛みよりも気になることがあった。少し前から、ずっと気になっていること。やはり、直接対決しか解決の方法はないと、ルカは考えていた。 |
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★ ルカ、ムサシを問い詰める。 |
「最近、俺が変だって?」 「ええ。」 「どういうふうに?」 学校の帰り道、ルカはムサシと一緒に帰りながら、ずっと気になっていたことを訊いているのだ。 「だから、ムサシさまの考えていることがわからないの。」 「俺は昔から、考えてることを喋ったりなんて、あまりしていないと思うけど。」 ルカは、ムサシと並んで歩きながら言った。 「違うの。まえは、ムサシさまの考えていることがわかったし、同じ方向を向いていられた気がするの。だけど、最近は違うの。前はすぐそばにいたムサシさまが、今は何だか、とても遠い気がするの。」 ルカは、視線を少し下げて、考えていることを刻み出すように喋った。自分でも、不安の実態が掴めないので、喋りながら考えているのである。ムサシは視線を前に向けたまま、黙って聞いている。 「最近のムサシ様は、まるで別の世界の人に見えるの。ムサシさまがどっちを向いているのか、どこに行こうとしているのか、私には全然わからないの。」 ムサシは頭をポリポリとかいて、ルカの顔を見ずに言った。 「ま、おれとおまえは別の人間なんだ。わからなくて当たり前じゃないか?」 ルカは振り向き、きつい眼差しをムサシに当てた。ムサシはルカを柔らかく見ている。ルカは目をそらし、ムサシに言うともなく呟いた。 「別々だから、わからなくて当たり前、ね...」 ルカは立ち止まった。ムサシはゆっくりと振り返った。ルカはカバンを両手で持ち、ムサシに戦いでも挑むような目を向け、足を広げて立っている。ルカは黙って、何かを待っているようだ。やがて時が満ち、ルカは深い吐息をついた。手を首の後ろに回し、髪留めをするすると外した。行儀よく束ねられた髪が、ふわっと広がり、ルカの顔をふちどった。 「それしか言ってもらえないのね。いいわ、この話はまた今度。」 さらに、ルカが首を大きく振ると、これまでどうやって押さえていたのかと、驚くほどの量の髪が広がり、ルカの顔を半ば隠した。隠れた顔の下から、ルカが言った。 「さよなら。ムサシさま。」 ルカは髪を風に波打たせながら、ムサシに背を向けて歩き始めた。ルカを覆い尽くすように煽られて暴れる髪は、まっすぐに目的地を目指す龍のように雄々しく、暴力的に進んでいった。ムサシはそのままに立ち、ルカ、あるいは黒い龍が遠ざかるのを見守っていた。 「ほんっとに、すごい女。」 ムサシは、ぼそっと言い、首を振った。もう姿の見えないルカの消えていった方向に軽く手をあげた。 「さようなら。またあした。」 ムサシも歩き出した。自宅へ向けて。 |
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★ ガーベラ、コウガを撒く。 |
「じゃ、さよなら。」 ガーベラは軽く手を上げ、コウガに別れを告げた。駅前の中心街で、会社帰りにデートをしたのだ。食事をして、デパートめぐり。他愛のない、男性が敬遠するコースだが、コウガは文句も言わず、嫌そうなそぶりも見せず、ガーベラについて歩いた。けっきょく、買ったのは濃いグリーンの薄手のマフラー一本だった。店員が包もうとするのを断り、タグだけ取ってもらって、くしゃくしゃと丸めてバッグに放り込んだ。外に出ると、もう暗くなっている。この季節は、昼間は暖かくても、日が落ちると肌寒さが感じられるのだ。 「じゃ、また。」 コウガも手を軽く上げた。そのコウガを見て、ガーベラは上半身全体を左に傾けた。 「?」 コウガが戸惑っていると、ガーベラを身体を立て直し、近づいてきた。 「やっぱり、思ったとおりだわ。」 言いながら、ガーベラはさっき買ったマフラーをバッグから取り出し、さばく手も鮮やかに、コウガの首に巻きつけた。 「この色が合うと思ったの。うん、いい感じ。」 ガーベラは少し引いて、コウガの姿を見た。 「渋い感じがよく出てるわよ。」 コウガは珍しく、驚きを見せていた。かなり動揺しているようだ。 「私に、なのか?」 「そうよ。」 「最初から?」 「そうよ。男物だってわからなかったの?」 ガーベラの頬が赤く染まっている。これは肌寒さのせいばかりではあるまい。 「あ、ありがとう。」 コウガの言葉に、いつもの勝気さにも似ず、ガーベラは照れているらしい。ハイヒールで街路樹をがしがし蹴っている。ガーベラは振り向き、にいっと笑って言った。 「驚いた顔、初めて見たわ。」 コウガは顔を撫でまわした。いつもと変わっているようには感じないが、表にまで動揺が表われているらしい。確かに、めったにないことだった。 「そうらしいな。」 ガーベラは拳を握り、親指を立ててコウガに向けた。そして、手を振り、歩き出した。離れてゆくガーベラの背を見て、コウガはやはり去ろうとしていた足を止めた。コウガは、ガーベラに言いたいことがたくさんあった。今までの蓄積分もあるが、今、ガーベラにマフラーを贈られて、爆発するほどの量の思いが、今生まれでてきたのだ。コウガはガーベラに、すべてをぶつけてみることにした。ガーベラは駅のほうに向かっている。急げば、十分に追いつける。コウガはガーベラの後を追い始めた。 |
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ガーベラは無意識に、通り道を変え、隣のデパートに迷い込んだ。まるで、尾行から逃れるように、いろいろなところを歩き回っている。何か、ちりちりとするものを感じてなのだが、意識の表層にはあがってきていない。いつもと違うルートを通り、違う店に入り、時間をつぶし、また出る。たっぷり1時間ほどの間、ガーベラの意識はアイドリングしながら、追尾者を完全に撒いていた。ガーベラは、自分を追ってきているものがあると、無意識のうちにこのように行動してしまうのだ。もちろん、本人も意識してはいない。 コウガと別れてから一時間以上経って、ガーベラは自宅にたどりついた。携帯電話の電源を切っていた事に気付き、電源を入れると、コウガからの連絡が入っていた。別れてすぐの時間である。 「あちゃー、悪いことしたかな。」 ガーベラがコウガに電話をすると、コウガはほっとした様子だった。話したい事があって、別れてすぐに後を追ったが見失い、連絡を入れたとのことだった。ちょうどそのころは、お店を冷やかしていて、歩き回っていたからだというと、納得していた。話したい事については、それほど急ぎではないから、また今度会った時に、ということで、電話を切った。コウガが名残惜しそうだったのが妙に引っ掛かった。もう一度、掛けなおそうかと思ったが、しばらく携帯電話を眺めて、けっきょくかけるのはやめた。電話でするような話ではないような感じだったからである。 ガーベラは携帯電話を置き、ダイニングテーブルに腰掛けた。何か、全身の力が抜けたような感じだった。携帯電話をしばらく睨んで、呟いた。 「やっぱり、変だよな...」 何で、コウガはガーベラに追いつけなかったのだろう。なぜ、ガーベラは携帯電話の電源を切ったままにしていたのだろう。なぜ、1時間も、あそこで時間をつぶしていたのだろう。 「何となく、嫌な感じがする、か...」 ガーベラはイガの言葉を思い返していた。何となく、しっくりこさせないような感じ。なぜだろう。私はこんなにコウガのことが好きなのに。表にはそれほど出していないが、ガーベラはコウガのことが好きだった。見事に抑制された、整った精神。かと言って、四角ばった謹厳実直居士でもない、柔軟な精神。大きく、場所をとる身体。きょう、引きとめられたら、私はついて行っただろう。どこまでも。たとえそこがどんなところでも。私はそれくらい、あの人を信じているし、あの人が好きなんだ。それなのに、どんなところで待ち合わせしても、すぐに私を見つけてくれるコウガが、ふらふらと歩いている私を見つけられなかった。何かが、ある。 考えているガーベラに、電灯の灯かりが邪魔になったので、電気を消した。カーテンが開いていた窓から、月の光が差し込んだ。それもうるさくて、カーテンを閉めた。重さの感じられるような闇の中で、ガーベラは考え続けた。コウガのこと、イガのこと、自分のことを。 |
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★ イガ、ルカと会う。 |
ルカは、もう自分がどこを歩いているかもわからないほど、怒りまくっていた。 (本当に前は、同じものを見ていられたのに。確かに見ていられたのに。) 空は次第に黒ずみ、夕焼けも赤い名残を残して闇に包まれてゆく。 (あんな紋切り言葉で切り捨ててしまえるの?私のことなんて、もうどうでもいいの?) 暮れなずむ街を、髪をなびかせて、風を切るように歩く美少女に、声をかけるもの、口笛を吹くものもいたが、ルカにはどうでもいいことだった。闇に包まれてゆく町並みと同じ、舞台の書き割りの一部にしか感じられない。 「ばかムサシ...」 どうしようもなく腹が立ってきて、口に出して呟いた。口に出したら、腹の辺がすうと寂しくなったので、よけいに腹が立った。 (もう、どうでもいいわよ。) ルカは歩き続ける。夜の街に、溶け込むように。それでも、あまりにまっすぐに歩いているので、それ以上声をかけてくるものもいなかった。ルカは、もう自分でもどうやってこの気持ちを鎮めていいのか、まったくわからなくなっていた。 |
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街はそろそろ夕闇に包まれ始めている。イガは新しい木刀を仕入れるべく、武道具屋に向かっていた。学校帰りに商店によることは禁止されている。一度家に戻ってから出てきたため、こんな時間になってしまったのだ。空が濃くなり、人工灯が街のあちこちを彩り始めると、昼間はどうということのない普通の街並みが、瞬く間になまめかしい化粧をのせて、活き活きと華やいでくる。イガはこの時間が嫌いではないが、潜んでいる危険にも気付いていた。 (なかなかいい感じに色づいてきてる。でも、俺はまだこの色をこなしきれない) イガはあえてそちこちを見ずに、目的地へと急いでいた。意識してずらしている視線の縁を、違和感のあるものがかすめた。 「?」 イガは確認しなければいけない気がして、そちらに目を向けた。原色やパステルカラーの灯かりが彩る街の中を、見知った顔が歩いていた。見知ってはいるのだが、まるで見知らぬ雰囲気をまとって、颯爽と歩いている。髪を漂わせて、どことなく哀しげなその顔は、中学生とは思えない、妖しい色気を発散させていた。 「あ、あぶない雰囲気だな。いったいどうしたんだ。」 颯爽とはしているが、目的をもたないような危うさを目に留めて、イガは声をかけた。 「ルカさん。ルカさんだろ?」 音がするほどの勢いで、こちらを振り向いた顔は、どうひいきめに見ても、怯えきっていた。イガが明るいところに出て、顔を晒すと、あからさまにほっとした様子を見せた。 「ああ、イガさん...」 「こんなところでどうしたんだよ。買い物?」 イガは、ルカを間近に見て、初めて違和感の原因がわかった。ルカは髪を解いているのである。始めに声をかけるのに躊躇したほど、印象が変わっていたのだ。それなのに、ルカだと言うことはわかっていたのである。 「ええ、ちょっと...」 いつもに似ず、歯切れが悪い。ルカは横をむいた。その時、イガの鼻先をかすめた髪から、オゾンの匂いがした。ルカは横を向いたまま、なんとなくくさくさしている。 (まるで帯電しているみたいだ) イガは何となく思った。ルカが、パワーを持て余しているように見えたのである。物の言いようも、どことなく投げ遣りで、いつもの行儀よくまとめた姿が見えない。イガはきっちりとまとめた髪のルカしか見ていないので、今のルカは、同級生の女の子というより、女、というほうが当っているように見える。この、人工灯の世界へ進むパスポートを、既に持っているかのように見えるのである。 いつもの友人の、初めて見る風情に、イガはどぎまぎして、言わでもがなのことを言ってしまった。口に出す瞬間に、ルカが今の状態になった原因がそこにあるとわかったのだが、脳の命令が追いつかず、言葉は発してしまった。 「ひとりでこんなところをうろついていると危ないぜ。ムサシは?」 ルカがイガに向けた視線は、カチカチに凍った冷凍マグロでも、さらに温度を下げるようなそれだった。 「ムサシさんがどうしていようと、知ったことじゃないわ」 イガは首を縮めた。 「私は、いつもムサシさんと一緒にいるわけじゃないもの。私には私の時間があるし、ムサシさんにはムサシさんの時間があるんだから。」 その時間を、いつも最大限一緒にいる方向に振り向けてたのは誰だよー、と思いながら、イガは腫れ物にさわるのは避けることを決めた。間違いなく、何かあったのだが、その何かはイガの守備範囲を大きく越えているのはわかっていたので。 「そ、そりゃ、そうだよな。トイレにまで一緒にはいかないもんな、は、はは...」 ルカの視線がきつさを増したので、イガは話題を変え、常識的な範囲からアプローチしてみることにした。 「それで、どこに行くつもりなんだよ。こんな時間に、制服のままで。」 ルカは自分を見下ろした。制服のブレザーのままである。通学カバンも持ったままである。こんな盛り場でうろうろしていたら、これだけで目立ちすぎてしまうだろう。ルカはイガの顔をみた。イガは回りを見回している。ネオンの光を浴びたイガの顔は、この風景に馴染んでいるように見えた。 「イガさん。」 ルカは気迫を込めて言った。イガは少し驚いてルカを見た。 「つきあって。ね、お願い。」 「はア?」 イガは事態の推移が飲み込めていない。まして、自分が遊び慣れているように見えたことなど、想像もつかない。イガはルカをまじまじと見つめた。ルカの眼は必死の思いを伝えている。イガは大きな溜息をついた。 「どこ行くの。」 ルカはぴょんとイガに近寄ってきた。 「どこか、遊べるところ。」 ルカの期待に満ちた目つきを見て、おれはそういうキャラクターじゃないんだ、と思いながら、イガは再度深い溜息をついた。 |
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